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Issue 02/吉田 重治さん(船橋市在住・自営業)

あの人の話

ご自身で事業をされる傍ら、「kame books」という屋号で、実店舗を持たない古本屋さんとして活動をされている吉田さん。2足のわらじで活躍する裏には、どんな想いがあるのか。吉田さんにとっての本屋とはなにか。色々とお話を伺ってみました。

ー吉田さんは、kamebooksが本業じゃないんですよね。どうして副業として古本屋さんを始めたんですか?

 平日は個人で社労士と行政書士の事務所をやっています。古本屋をやろうと思ったというか、本で何か活動したいなと思い始めたのが、2年ぐらい前ですね。特にきっかけはないんですけど、個人事業を10年やってきて、とりあえずなんとか食べて行けるようになったんだけど、仕事での自分の限界もわかってくるわけですよ。例えば、自分で従業員雇って、会社を大きくしたいとは思わないし、そもそも、そういう才覚は自分にはないだろうと。多分ずっと一人でやっていける形を模索していくと思うんです。そう考えたら、仕事以外でなんか別のことやりたくなったんですよ。

ーどうして「本」だったんですか?

 もともと本が好きだったので、本でなにかやりたいなとぼんやり思っていたのがちょうど2年前くらい。フェイスブックで誰かがシェアしていた本屋講座を知って、行ってみたんです。それがいちばんのきっかけですね。
 本は、子どもの時から好きで色々読んでたんですけど、今の活動を始めてから出会う人は、みんなもっとたくさんの本を読んでることに驚いて。もしかしたら僕はそんなに本好きじゃないかもしれないと思う瞬間もあったりします(笑)本を好きになったのは、学生の頃に部活とかもやってなくて家で本を読んで過ごすことが多かったからかもしれません。

ー本屋講座って面白いですね。その本屋講座から影響を受けたことは、なにかありますか?

 正しいかどうかはわからないけど、ゲストスピーカーだった内沼晋太郎さんの話を聞いて僕が感じたのは、内沼さんが考えてる「本屋」っていうものが、すごく広いということでした。例えば、店舗持たなくても本屋だろう、とか。ブログを書いてるだけでも本屋じゃないか、とか。
 そもそも、「本」というものも、書籍化されていないものでも本と呼べるものがあるんじゃないかという話をされていたのにも、なるほどと思った。お弁当とかについているメニュー説明のような冊子とかね。「本屋ってのは結構自由になれるものだな」と思えたのが、一番面白かった。
 それですぐに屋号を決めて、フェイスブックページをつくって、自分で本のことを書きはじめた。それがkame booksのスタートです。それ以外、特になにもしてなかったから、3ヶ月くらいは一件も「いいね」がつかないまま(笑)そのあと、古本市に出店してみて、面白いなと思った頃にHELLO MAEKRTの出店者募集をみて、応募したんです。

「kame books」が【HELLO MARKET】に出店する様子。
「kame books」が【HELLO MARKET】に出店する様子。

ー応募いただいたとき、面白い人がきた!と思いましたよ(笑)他の出店者さんたちは、本業的な位置づけでの小商いを目指す人が多い中、本業はあるけどそれはそれで、好きなことを副業として小商いしたいって、面白いですよね。副業だからこそ、色々実験したり、自分の理想を最優先したりできる良さもある気がします。他の古本市もに参加されたり、HELLO GARDENを活用してご自身でも「西千葉一箱古本市」などのイベントを企画されたりと、結構な頻度で週末活動されていますよね。本業がしっかりある中で、このペースで活動できるバイタリティはどこからくるのでしょうか?

 本屋をやろうと思った時、最初は店舗持つことも念頭に置いてたので、店舗持つとしたら、いずれにしても土日と、可能であれば平日の夜にやることになりますよね。そういう形でやってる人もいるので、最初の1年は、土日はとにかく動いてみたいなと思って、動けるだけ動いてみたんですよね。そしたら、一年中あちこちで古本市があったので、店舗はいらないかなって思ったりもして(笑)それはそれで、店舗を持つ意味ともまた違うんですけど、なんとかやれるかなとも思いました。でもこれからは、古本市にでる頻度は少し減らして、古本市と並行して店の軒先を借りて売ったりするやり方にシフトしていきたいなって考えているんです。古本市では毎回会える人たちがいて、それが楽しさでもあるのでですが、コミュニティを強くするよりも、新しい人に出会いたい。

ーすごく意外!イベントを主催されている吉田さんを見ていると、みんなのコミュニティの中心にいるのがすごく上手というか、そういうことが好きなんだと勝手に思ってました。

 もともと人の輪の中にいないことが多かったんです。輪って、輪の中いる人は楽しいけど、外からは入りづらいじゃないですか。だから自分は輪よりも線でいた方が面白いかなと思ってて。古本市って、全然本名も知らない人もいっぱいいるし、お互い屋号で呼び合って、仕事も住んでるところも知らないまま。その不思議なつながりが良いなと思っています。ただ、古本市以外のスタイルをやることで、もっといろんな人と出会える可能性があるなと思うんです。

吉田さんが主催する「西千葉一箱古本市」。
吉田さんが主催する「西千葉一箱古本市」。

ー人によっては、副業ではじめた好きなことがいつか本業になる人がいたり、逆に、好きなことを仕事にしたはずなのに、仕事として続けていくのが難しいという理由で、好きだったものそのものをやめてしまう人もいますよね。吉田さんの「両方やる」というスタイルは、大変な部分もあるとは思いますが、バランスのとり方の、ひとつの選択肢だなと思います。

 好きなことを本業にするかどうかって、明確に職業として成立するかってことも大きいんじゃないですかね。本屋は商売として成立しづらいけど、好きだからやりたい。まぁ平日の仕事も別に嫌いじゃなくて、楽しくてやってるっていうのも、もちろんありますけどね。
 好きなことを好きでいられるようになりたいし、他の人もそうだったらいいなと思います。絵を描くのが好きな人には、ずっと絵を描いてて欲しいな。仕事になるならないとは別格のところで、ずっと好きで居られるといいですね。でも、好きでい続けるって、周りのサポートが絶対必要だなと思うんです。好きなものを好きと発表する場所があるとか。自分にとっては、HELLO MARKETとか一箱古本市とかがそうですけど、お金になるかどうかとは別のところで、好きなものを発表できるのはすごくいいなと。だから、自分も誰かのために、そういう何かができたらいいなと思いますね。
 好きだったことを諦めていく人を見てきて、その理由が「商売にならないから」というのがなんだか残念だなという気がしていました。それで食べていくぞというほど商売にならなくても、ずっと好きでいられる方法を模索し続けたいですね。

ー「本が好き」というのはもちろん本当だと思うのですが、それだけが活動の動機ではなく、「本屋という業態に興味がある」という感じに見えます。なんていうか、本屋というのは吉田さんにとって手段で、なんだか根っこにはもっと違う興味がありそうというか、、、。

 僕、だいたい本好きの人と話合わないんですよ。読書会とかもあんまり興味なくって。本好きと知り合いたいとか、そういうのが原動力じゃなくて、ただ何か好きなことをやってる人と知り合いたいんです。自分の知らない世界の話とか聞くのも楽しいし。
 なんか、「好きなことを話してる」ということが好きなんですよね。特に若い人が。一時期、大学の学祭とか回ってた時期もあって(笑)全然知らない海洋大学の学祭に行って、学生が深海魚のことをすごく楽しそうに話しているのを聞いたりとか。で、僕、全然わかんないの(笑)でも、僕が全然知らないことを、僕が聞いてるか聞いてないかも気にせずただ、嬉々として喋ってることが好きなんですよ。それを聞いているのが、すごく楽しい。そういうのいいなぁって。

ーそういう人と出会うきっかけを自分でつくるために、吉田さんは本屋さんやってるって部分もあるのかもしれないですね。

 そうかもしれないですね。人が勝手に好きなことをやってるのが好きなんですよ。仕事だからやるとか、儲かるからやるとかじゃなくて、
ただ好きだから、好きなようにやってるっていう状態の人を見るのが好きなんです。だから僕自身もそれをずっとできるといいなって思うし、僕の周りにいる、特に若い人もそうできるといいなと思いますね。

ーそういう人に出会うきっかけとして、本屋っていいですね。どんなことに興味がある人も、結構本に行き着くじゃないですか。その分野のことを知ったりするために。本にならない分野なんてないくらい。

 そうですね。だから本屋はそういう意味では面白いなと思うし、店主の個性がそれぞれ現れる古本市も面白いです。

ー今、紙媒体の本はなくなるんじゃないかなんて言われる時代で、まちの本屋さんも減ってきていますよね。そんな中で、吉田さんはどんな本屋さんでいたいと思いますか?

 本を読んでる暇がないほど日々が楽しくて楽しくてしょうがない人には、本は要らないと思ってるんですよ。本屋がなくなるっていうのは、みんながそういう幸せな時間しかなくなる日だと思ってるんです。でもまあ、そんな日は来ないので、たぶん本屋はなくならないと信じてます。僕は学生時代から本を読んできたけど、本なんて全然読まないで、女の子とデートして楽しくやってられる人生にもやっぱり憧れはあります(笑)本を読まないで済む人生もいいなぁと。ただ、なにか辛いことがあった時には、人よりも本があった方がいいなと、僕は思うんです。本を読まないと過ごせない時間が誰しもにあると思ってるので、そういう誰かのために、僕は本屋でいられたらいいなって思います。
 「たぶん、書店は減るけど本屋は減らない。本屋は人だから」っていうようなことを内沼さんがおっしゃっていて、その通りだなと共感しました。本屋っていうのは、たぶん形変えて、増えていくんじゃないかなと思うし、そうだったらいいなと思いますね。

ーところで、急な質問ですが、吉田さんが最近オススメの本はなんですか?

今日持ってきましたよ!『ひきこもれ』『東京すみっこごはん』『神様のいる街』の3冊。
 『ひきこもれ』は、吉本隆明の晩年の作品なのですが、彼は晩年の方がいい作品が多くて好きなんです。今の時代、自己表現が上手な人、外にうまく表現できる人が評価されるけど、引きこもってる自分の中でどんどん深く考えるってことはすばらしいことなんだっていうのを書いてて、そうだなと思ったんですよね。いろんな人と仲良くなりたいっていう思いは誰しもあるけど、結局できないんだからしょうがないし、それはそれでいいんですよみたいな話をしてて、なんかいいなと。
 『神様のいる街』は、作家が、自分が作家になる以前の若い頃、神田だか、神戸だか、「神」のいる街にいて、そこでグダグダしてた時代のことを書いて、グダグダしてる時期も必要だなと。一直線に進んでないっていうのが、いいなぁと思って選んでみました。
 『東京すみっこごはん』は、最近読んだから(笑)いろいろな状況の人が元気付けられて行く話なんですけど、僕らは普通のことで傷ついて、普通のことで励まされるんだなってことを思って。で、その励ますっていうのは個人の力っていうよりも、その「すみっこご飯」という場が持つシステムの力も大きくて、そういった店のシステムを考えておくと、誰かが誰かを励ませるし、励ましやすい形になるのかなと思うと、面白かったですね。

吉田さんがおすすめする本たち。
吉田さんがおすすめする本たち。

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