HELLO LETTER トップへ HELLO LETTER トップへ カテゴリ一覧へ カテゴリ一覧へ
HELLO LETTER トップへ HELLO LETTER カテゴリ一覧へ

Issue 03/野村 亮さん(千葉市在住・会社員)

あの人の話

野村さんは、料理人としてお勤めをする傍で、『yo.ki.hi』という屋号を掲げてHELLO MARKETで焼き菓子や料理を販売したり、ケータリングや出張料理人として活動をされています。ファンも多く、野村さんがHELLO MARKETに出店する日は、多くの人々がそれ目当てに訪れるほど。たくさんの人を虜にしている料理を生み出す野村さんに、料理人という仕事と生き方についてお聞きしてみました。


ーありきたりな質問かもしれないけれど、野村さんはどうして料理人になったんですか?

その質問はきっと、料理人はどっかで1回は聞かれてるよね。美容室とか他愛のない会話をしなきゃいけないところとか、自己紹介する場面とかでね。

僕は、後付けなのか本当なのか自分でもわかんないんだけど、親父の影響だと思う。親父はべつに料理人ではなくて、普通のサラリーマンなの。出世のできない普通の会社員。だからほとんど家の料理はお母さんがつくっていた。父親の料理といえば、母親がいない時とかにつくる焦げた野菜炒めが乗ってるインスタントラーメンとか、そういうのばっかり印象に残ってる。別にすごい美味しいわけじゃないんだけど、自慢げに「うめぇだろ」っていいながら、ずっと食べてる僕の目の前にいるの(笑)あとは正月に新巻鮭切るのと餃子焼くくらい。頻繁に料理をしていたわけではないけれど、なぜか親父が台所に立つ姿をよく覚えてる。料理に興味を持ったのは、たぶんそれがきっかけだと思う。小学校の文集にはもうすでに「板前になりたい」みたいなことを書いていた。親父の料理する姿は全然かっこよくないんだけど、母親とは違う雑さが、妙に響いちゃっだんよね。めちゃくちゃ雑だし、焦げてるし、でも、とにかく俺のためにつくってくれてる感を強く感じて、あの味はずっと今でも覚えてる。


ー家族の姿とか、子どもの頃の体験とか、なぜか強烈に自分の中に残っていて、人生のあいだ中ずっと自分に影響を与えてくるような記憶ってありますよね。すごく不思議。別に美しい思い出ばっかりではないんですけどね。お父さんはどんな方だったんですか?

めっちゃいい加減(笑)だと思う。たぶんね。僕が20代前半の時に親父は60代で死んだ。思春期の時は反抗期だっだし、そのあともそんなに話をしたりすることはないままだったから、実は親父の本当の性格とかってわかってないのかも。大人になって、親としてではなく一人の対等な人間として親父を客観的に見る時間っていうのがなかったな。でもなんとなく、僕は父に性格が似てるんじゃないかなって思ってる。少し真面目すぎるところとか、悩みすぎちゃうところとか、ふざけるのが好きがところとかね(笑)


ー野村さんはどういう道を歩んで今のような料理人になったんですか?

大学に行く頭も、勉強したい気持ちもないから、高校を卒業した後は自ずと専門学校に行くっていうのが自分の中にあった。それで迷いもなく調理師学校に進学したんだ。でも学校で学ぶ事ってそんなに多くなくて、実際はその後就職して、現場で学んだことが今の自分の基礎になっていると思う。

最初の就職先は、千葉パルコの近くの銀座通りにある和食屋さんだった。そこは半年で辞めちゃったんだけどね(笑)当時の僕はとても弱くて、すぐ挫折して、逃げるように辞めちゃった。その次は、社員食堂で働いた。そこには2・3年勤めたんだけど、そこで働いているうちに、このままじゃ梲が上がらないというか、ここではもう腕が磨かれないだろうと思った。だって、たいした経験のない僕が、一緒に働くおばちゃん達に重宝されちゃうくらいの環境だったからね。

今はそんな時代じゃないんだろうけど、当時は、料理人になるなら下積みをしっかり経験しないと生きていけないっていう空気があった。だから、自分ももっと苦労しなくちゃと自分に言い聞かせて、23歳くらいのときにいきなりフレンチの門を叩いたんだ。


ーその時、数ある料理のジャンルの中でもフレンチを選んだのはどうしてですか?

単純にテレビの影響だね(笑)『料理の鉄人』を見て。当時の僕には、そういう場所以外に料理の世界を知る場所がなかったんだ。それで今はもうなくなってしまった八千代のフランス料理屋さんに飛び込んだ。もうめちゃくちゃモチベーション上がってたなあ。そこでしばらく修行をさせてもらって、また転職した。
 僕は、ずっと厳しいところにはいれない性格で、厳しいところとゆるいところを交互に繰り返しながら転職している。ゆるいところで休憩入れて、充電して、また厳しい世界に入っていくみたいな(笑)それでもずっと変わらないことは、最初のお店の時も、次の社員食堂の時も、そのあとに働いたどのお店でも、料理することはすごく楽しかったんだ。料理が嫌だって思った事は一度もない。でも実は一度だけ、10年間働いたイタリアンのお店を辞める時に、もう料理を仕事にするのはいいかなあと思ったことがあるんだ。料理は好きだけど、それを仕事にするのをやめようと思って、料理以外の仕事の面接を受けた。それで住宅の外装を売る営業に採用してもらったんだけど、やっぱり料理の世界がいいなって思って、結局この世界に戻ってきちゃったんだけどね。

 そのイタリアンのお店に勤めている間に結婚したんだけど、そこでの仕事はすごく拘束時間が長くて、朝8時出勤で夜は0時を超えるような日々で、定休日も週1回。新婚生活もない。料理人は身体を使う仕事だし、結構きつかった。定休日も結局次の日のことを考えながら過ごすみたいな感じで、これはもうやめようと思った。料理人の生活に疲れて、心折れちゃったんだよね。

HELLO MARKETに出店する野村さん


ー今の野村さんは仕事もプライベートもすごく充実していて、いいなあって思っていたけどけど、そういう経験があっての今なんですね。積極的にそうしているという感じなのかな。

そのお店をやめてから仕事に対しての考え方がガラっと変わったんだ。当時の僕は、いわゆる料理家さんとかフードコーディネーターさんとかいう仕事の人を理解出来なかった。お客さんと面と向かわず、なにで金をもらっているんだろうって、さっぱり分からない。料理をつくることはある種のサービス業で、美味しい料理をつくるだけじゃだめで、いろんなリスクも背負いながらやるもんだと。それこそランチ時なんて、どんなに美味しくっても、待たせてはダメとかね。そういうのも全部、料理のうちに含まれるっていう意識があったんだ。ただ美味しくて綺麗でっていうだけじゃねぇぞって。でもいろんな料理家さんがSNSの力も借りながらどんどん世の中でクローズアップされ始めたのを見て、素直に僕はそっちに行きたいってガラッと180度、意識が変わった。間違いなく「料理人」はビジネス。いわゆる料理人をやり続けると私生活は潰れるような職業だと思う。でも「料理家」の人たちは、その人の生活そのものと自分の料理を合わせているのが魅力的に見えて、すごくいいなと思ったんだ。


ー今の時代に支持されている料理家や飲食店の料理人は、働くことと生活することのどちらも大事にして、それだから仕事もその生活もより素敵になって、その世界観全てに共感してファンが増えるって感じの方が増えてる気がしますね。実際はどちらも大事にできているのかはわからないけれど、そういうふうに見える。

やっぱり歳をとって、自分の体力のこととかも現実的に考えて、働き方を変えていかないとなと感じてる。料理以外にも好きなことたくさんあるしね。音楽とか。普通の私生活があるからこその料理っていうのが絶対にある。飲食店でがむしゃらに料理人やっている間は、料理を食べ歩く時間にも限度があるし、勉強っていったら本しかなかったし、本当に無知だったと思う。やり続けて、技術は成長したのかもしれないけれど、今の方がいろんな味やいろんな世界のことをたくさん知っていて、インプットが出来てる。それがつくる料理にすごく影響を与えてくれているんだ。だから、一概にお店をやり続けることだけが凄いことじゃないんだって気づけた。それこそ、HELLO GARDENにきて芽衣さんとあやさんと喋ったり、HELLO MARKETに出店してクラフトとか自分とは全然違うジャンルのお店を見たりすることで、実感するなにかがあって、それは僕にとってすごくデカイこと。

でもきっと若いうちにそればっかりやっていても、その大変と料理がつながらなかったと思う。ある程度の経験を積んだ時に、異業種からのインプットや自分が体験したものが自分なりに変換できるようになるんだろうね。HELLO MARKETに出店したこの3年はすごくいい経験になってる。


ー野村さんはHELLO GARDENで育てているハーブをよく使ってくれたり、HELLO MARKETに出店している「みっこのやさい」の野菜を使っていたり、顔が見える人から食材を仕入れていますよね。そこにはなにか野村さん的な哲学があるんですか?

単純に楽しいからかな(笑)HELLO GARDENのハーブもみっこのやさいの野菜もオーガニックだけど、それは結果論。僕は無農薬をすごい使いたいわけではなく、どっちかって言ったら地産地消の方が大事だと思ってる。オーガニックだけど海を渡って向こうから来てるものより、身近な人なものを使っている方が、その人たちが生み出している価値と自分が生み出している価値を合わせて、より大きな価値としてお客さんに届けられるんじゃないかって。僕が良いなって思うモノや人を、料理を媒介にしてより多くの人に届ける仲介人役みたいな感じかな。その食材をつくっている人柄を知ると、より美味しいと感じるから、そういう特別な美味しさに一番意味があると思うし、そういう感覚を大切にしたい。世間の物差しじゃなくて自分の物差しで良いじゃんって思うから、その自分の物差しを他の人に紹介して、その物差しを受け入れてくれる人が、顧客になってくれるのが1番嬉しい。

HELLO GARDENのハーブとか果物とかは、メンバーが育てている様子とかも見ているし、そこで時々お手伝いもしているけれど、そこから料理のアイデアが湧いてくることもある。実験ガーデン(HELLO GARDEの菜園のこと)にいるとやりたいことがどんどん思い浮かぶよ!それは最高に楽しい。HELLO GARDENで採れた食材をつかって料理して、すぐにHELLO MARKETで売るって、本物の旬だし、リアルタイムですごく面白い。あと、スーパーっていつでもなんでもあるけど、ここにはないじゃない?それが逆にいいんだよね。


ーHELLO GARDENの実験ガーデンは農業とはまた違って、家庭菜園の楽しみ方を探っているんです。だからこそ、いろんな植物たちを育てられるし、家庭菜園だから味わえる味もあるのが面白いなって思っています。スーパーでは間引いた葉っぱや、グミの実、桑の実、ズッキーニの花なんて売ってないからね。

欲しいと思った食材がない時に何で代用できるかなって考えたり、市場に出回ることのないような食材や、よくある野菜でも普段は食べない部分を食べたり、そういう面白さにここで気づいた。HELLO GARDENで育っているものでグリーンカレーペーストをつくろうって遊びを一緒にした時、ニンニクが必要だったけどHELLO GARDENにはニンニクはなくて、代わりにネギの球根使ったよね。あの発想は僕には意外となかった。HELLO GARDENにくると、「これ食べてみて」ってよく芽衣さんに言われて、いろんなもの食わされてる気がする(笑)「この人なんでも食べるな〜」ってびっくりした(笑)でも、それもすごくインスピレーションになってる。固定概念を捨てるってこと、ここで結構学んでるかも。


―今後、どんな風に活動を続けていきたいと思っていますか?

最終的には小さいお店を出したいと思ってる。多くのお客さんを相手にするレストランではなくて、自分の生活の一部をシェアするようなお店を。語弊を生むかもしれないけれど、お客さんのためじゃなくて、家族と過ごす術としての料理っていうのをやりたいな。お客さんのことを考えるっていうのは大前提で、でもお客さんのことだけを喜ばせて自分の生活を削るようなお店はやりたくない。今まで培ってきたものを自分に返して、それをお客さんにお裾分けする感じ。それを喜んでくれる人がお客さんになってくれたらいいな。自分の好きなものだけをやりたい。

そこにいくまでのチャレンジとして、今出店しているHELLO MARKETだけじゃなくて、もっと自分の色を出した企画をHELLO GARADENでやってみたいな。

あの人の話の他の記事